日本教育新聞 2018年4月16日号に、次期学習指導要領の共通教科情報科の紹介と、円滑な実施に向けて解決すべき課題について、記事が掲載されました。
◇情報科の成り立ちと前学習指導要領◇
高等学校に教科「情報」が新設されたのは、二〇〇三(平成十五)年度である。普通教科(現共通教科)と専門教科が設定され、普通教科は情報活用の実践力を中心に学ぶ「情報A」、情報の科学的な理解を中心に学ぶ「情報B」、情報社会に参画する態度を中心に学ぶ「情報C」の三科目が設定され、これらの中から一科目を選択必履修することとされた。しかし、本来は進路や特性に応じて科目の選択を生徒自身が自由に行なえるようにするべきところ、学校側が科目指定を行ない、生徒は選択できないという状態が一般的だった。全国の高等学校における各科目の開設状況は、「情報A」が八〇%であるのに対し、「情報B」は僅かに五%、「情報C」も一五%にとどまるなど、「情報A」に偏重していた。さらに、情報活用の実践力=オフィスソフトの使用法という矮小化された解釈のもと、ワープロやプレゼンテーションソフトの使い方の実習ばかりが行なわれるような授業も少なくなかった。
この原因は、教員に因る部分も大きかった。情報科の新設にあたり、二〇〇〇年度からの三カ年に亘って「新教科『情報』現職教員等講習会」が実施され、これにより免許が発行された教員が授業を担当した。この講習は僅か十五日間に過ぎず、情報科の幅広い内容を指導するのに必要なレベルまで引き上げるには無理があったと言わざるを得ない。
◇情報科の現状と現行の学習指導要領◇
これらの問題を抱えていたとは言え、新教科として情報科が立ち上がったことは意義深く、各地に情報科の教科研究会ができ、それを束ねる全国高等学校情報教育研究会(全高情研)も設立された。全高情研の全国大会では、高等学校教員のみならず、大学の研究者なども毎年数多く研究発表を行ない、授業内容の改善や新しい取り組みへの推進力となっていることは実に頼もしい。
二〇一三(平成二五)年度入学生から施行されている現行の学習指導要領において、共通教科情報科は、「社会と情報」と「情報の科学」の二科目に再編された。その内容を、次に示す。
「社会と情報」
(1)情報の活用と表現
(2)情報通信ネットワークとコミュニケーション
(3)情報社会の課題と情報モラル
(4)望ましい情報社会の構築
「情報の科学」
(1)コンピュータと情報通信ネットワーク
(2)問題解決とコンピュータの活用
(3)情報の管理と問題解決
(4)情報技術の進展と情報モラル
「情報A」に相当する科目が消滅し、「社会と情報」が「情報C」、「情報の科学」が「情報B」を発展させたような位置づけとなった。しかし、学校側が科目指定を行なうという状況に変化はなく、「社会と情報」が八〇%、「情報の科学」が二〇%という開設状況にある。
また、情報科の担当教員問題は、情報科が新設されてから十数年経たにも関わらず、改善されるどころかより劣悪な状況になっている。全国の情報科教員のうち、情報科専任は僅か二〇%であり、五〇%が他教科との兼務、残る三〇%は情報科の教員免許を持たない免許外教科担任や臨時免許で指導している。
◇情報科のこれからと次期学習指導要領◇
学習指導要領改訂の第三ステージとして、今回告示された次期学習指導要領の共通教科情報科は、今までの延長線上ではなく、かなり大きく変化した。「情報A」「情報B」「情報C」の時も、「社会と情報」「情報の科学」の時も、ともに選択必履修であり、また、これを発展させたいわゆる積み上げ科目が共通教科情報科には存在しなかった。ところが、今回は、必履修科目が「情報Ⅰ」に一本化され、さらに、発展科目として「情報Ⅱ」が設定された。
次にその内容を示す。
「情報Ⅰ」
(1)情報社会の問題解決
(2)コミュニケーションと情報デザイン
(3)コンピュータとプログラミング
(4)情報通信ネットワークとデータの活用
「情報Ⅱ」
(1)情報社会の進展と情報技術
(2)コミュニケーションとコンテンツ
(3)情報とデータサイエンス
(4)情報システムとプログラミング
(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究
この内容を見ればわかるように、「情報Ⅰ」の上に「情報Ⅱ」が位置づけられていて、内容の対応は、「情報Ⅰ」→「情報Ⅱ」で、(1)→(1)、(2)→(2)、(3)→(4)、(4)→(3)と、非常にわかりやすい構造になっている。「情報Ⅱ」の(5)は、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」で習得した知識・技能を使って、総合的な課題探究を行なうという位置づけになっている。専門学科における課題研究に近いようなものであるとも言えよう。
各科目の標準単位数はいずれも二単位であるものの、今までの選択必履修科目の平屋建てから、共通必履修科目の上に発展科目を乗せた二階建て構造になったことで、統一された内容が指導されることになり、さらに、その内容を深める学習も可能になる。この構造的な変化は、高等学校における情報科のプレゼンスを向上させることになると思われる。
内容についてもう少し具体的に見てみると、情報デザイン、プログラミング、ネットワーク、情報セキュリティ、データベースなどが「情報Ⅰ」で必ず扱うものとなった。さらに、データサイエンスや情報システムなどに関する内容が「情報Ⅱ」で充実した。端的に言えば、情報の科学的な理解に大きく重点を移し、現行の専門教科情報科で扱っているような深い内容のものが幅広く取り入れられた。
他教科との兼任や情報科の免許を持たない教員に、これらを適切に指導できるのか、非常に心許ない。このことについては、大学における教員養成、教育委員会における教員採用、さまざまな現職教員研修などの、教員を取り巻く環境の改善・支援や、コンピュータや情報通信ネットワークなどを活用した実習を積極的に取り入れるために必要な情報機器やネットワークなど教育環境の改善が待たれるところである。