情報処理, Vol.62, No.11
「大学入学共通テスト実施大綱の予告に関する本会の意見について」
が刊行されました。
- 大学入学共通テスト実施大綱の予告に関する本会の意見について
https://note.com/ipsj/n/na06a142e6362 - 情報処理学会電子図書館
http://doi.org/10.20729/00213226 - 情報処理学会
「『令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告』に関する意見」
萩谷 昌己 |
大学入学共通テスト実施大綱の予告に関する本会の意見について |
2021年7月30日,文部科学省は2025年の大学入学共通テストに「情報」を出題教 科として,「情報I」をその科目として定めることを正式に発表した.これに呼応して本会では2021年8月4日に以下の意見を会長名で表明した.本稿では,この意見の背景を説明するとともに,多くの大学が入試に「情報」を採用すべき理由を述べる.すなわち,情報分野の素養は「情報社会に生きる市民」が共通して身につけておくべきものであり,すべての大学学部学科において,それぞれの学習および研究はその基礎の上に展開されていることを鑑みるならば,その定着を大学入試で測ることは高等教育にとってまったく適切である. |
情報処理, Vol. 62, No. 11, pp.e62-e66 (2021). |
2021年7月30日,文部科学省は2025年の大学入学共通テストに「情報」を出題教科として,「情報I」をその科目として定めることを正式に発表しました(表-1).
これに呼応して本会では2021年8月4日に以下の意見を会長名で表明しました☆1.
文部科学省が2021年7月30日に「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」を通知しました.その中で,出題教科として「情報」が定められたことを本会は歓迎します. これを受けて多くの大学が入試に「情報」を採用することを期待します. なお,大学入学共通テストの「情報」については,ほかの出題教科・科目とは独立した時間帯において,60分程度の試験時間が設定されるべきだと考えます. 本会は,今後とも,情報教育の推進に全面的に協力してまいります.
本稿では,この意見の背景を説明するとともに,多くの大学が入試に「情報」を採用すべき理由を繰り返し述べます.
文部科学省の発表に先立って,2021年3月24日に大学入試センターが上記の予告のもとになった検討の結果を発表しました.それに対して本会では3月29日に会長名で「そこに示された『情報を出題科目とし一つの試験時間帯として実施する』ことに賛同する」と表明しました.それに遡る2020年12月2日には,大学入試センターより本会に情報提供された「情報」の試作問題に対して,試作問題を評価するとともに同様の意見の表明を行いました.さらに遡る2020年3月26日にも,今回の決定に至る検討が文科省と大学入試センターによって行われている最中,同様の意見を会長名で表明しました.また,2018年3月9日には,上記の意見表明のもととなる「大学入試センターが実施する試験における『情報』出題の提言」を会長名で公表しました.このように,本会は一貫して共通テストへの教科「情報」の追加を主張し続けてきました.
その理由は2020年3月26日の意見表明の中で明確に述べられています.すなわち,AIあるいは数理・データサイエンスを含む情報分野の素養は「情報社会に生きる市民」が共通して身につけておくべきものであり,「情報」はそれらの基礎を学ぶ教科です.すべての大学学部学科において,それぞれの学習および研究はその基礎の上に展開されていることを鑑みるならば,「情報」の定着を大学入試で測ることは高等教育にとってまったく適切です.
教科「情報」については,高等学校の準備状況,特に地域間,学校間の格差を懸念する声を大学関係者の間でよく聞きます.しかしながら,全都道府県で情報科の教員の採用がすでに始まっていること,大学入試センター等においてさまざまな経過措置が検討されていることなどから,むしろ共通テストに「情報」が加わることにより,そのような格差は低減されると期待されます.そして,多くの大学が入試に「情報」を採用すれば,ますます格差は小さくなり,日本全国どこでも一定の水準の情報教育が実施される状況が現実となるでしょう.
情報分野の専門教育にとっては,教科「情報」は基礎の基礎であり,その入り口でしかありません.しかしながら,全国的にその教育が充実すれば,情報分野を目指す生徒たちの裾野が現在と比べて圧倒的に広がります.すなわち,共通テストに「情報」が加わることは,情報分野にとってもほかのすべての分野にとっても,メリットが大きいのです.
☆1 「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」に関する意見:https://www.ipsj.or.jp/release/20210804_kyotsutest.html