「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(上)

教育新聞電子版2018年11月19日付に
「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(上)
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「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(上)
教育新聞電子版2018年11月19日付
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「情報教育を抜本的に強化し、国語や数学、英語と同じように情報を基礎的な科目として位置付ける」――。政府は「未来投資戦略2018」で、大学入学共通テストで新学習指導要領の「情報I」に対応した入試を、2024年度からCBT方式で実施する方針を示した。実はすでに一部では、情報を入試科目に置いている大学がある。その中には国立大学や有名私立大学も含まれている。数学や英語が苦手な受験生でも、情報が得意なら、こうした大学に入れるチャンスがすでにある。なぜ情報入試を実施しているのか。情報入試を導入している慶應義塾大学の植原啓介准教授と明治大学の山崎浩二准教授に、その狙いを聞いた。

■問題解決する学生が欲しい
慶應義塾大学は湘南藤沢キャンパスにある総合政策学部、環境情報学部の一般入試で、17年度一般入試から情報を出題している。両学部とも、①「数学または情報」と「小論文」②「外国語」と「小論文」③「数学および外国語」と「小論文」――の3通りの中から一つを選択する。つまり、数学や外国語を避け、情報と小論文で受験することができる。情報は現行の科目である「社会と情報」「情報の科学」の内容から出題される。

毎年、情報を選択するのは両学部ともに100人程度と決して多くはない。植原准教授は「もう少し増やしたい思いはある。ただ、『こういう学生が欲しい』と始めたものなので、少ないからやめようということはない」と断言する。

では、どんな学生を求めているのか。その理由として同准教授は学部のアドミッションポリシーを挙げ、「両学部共に、問題発見・問題解決ができる学生を求めるとうたっている。それを正面から扱っている高校の教科は『情報』しかない。そういう意味で、一番理にかなっていると思う」と強調した。

同准教授は「入試は、大学が『こういう学生が欲しい』という一番強烈なメッセージだ。湘南藤沢キャンパスの学部は慶應の中でも、新しいものにどんどんチャレンジしていくミッションを持っている。学生が活躍する分野は情報に限らず、経済や法律、環境や建築でもよいが、いずれの分野でも、情報的なスキルが必須だということだ」と指摘した。

■脱・知識偏重型入試
13年度の一般入試から情報入試を導入した明治大学情報コミュニケーション学部は「地理歴史」「公民」「数学」と並び、「情報総合」を選択して受験できる。2年前までは「情報総合」での合格定員枠も設けていた。「情報」での受験は多い年で100人近くに上ったが、合格定員枠を廃止したここ数年は40人前後の受験にとどまっている。

「情報総合」は「社会と情報」「情報の科学」に共通する内容から出題することとなっているが、その問題は一般的な大学入試問題と比べると一風変わっている。例えば、18年度入試「情報総合」の大問3「じゃんけん」をするプログラムを考える問題では、変数や命令、条件などのプログラミングの知識に関する情報は問題の中に提示され、実際のプログラム例も示されている。受験生はそれらを読んだ上で、問題で指示されたプログラムを考えるため、プログラミングに関する知識がなくても「考えれば解ける」ようになっている。このように「情報総合」では知識偏重型の問題ではなく、論理的な思考力や判断力を問う構成となっているのが特徴だ。

こうした出題意図について山崎准教授は「情報は理系というイメージがあるが、情報社会に対して興味・関心の高い学生に来てほしいというメッセージを込めて、科目名を『情報総合』とした。知識重視でない入試をやりたいと思ったときに、既存の科目では実現しにくかった。この学部は04年にできたばかりで、新たな挑戦がしやすかった」と話した。

同准教授は他大学で情報入試が広がらない要因として、志願者確保の見込みが立ちにくいことと、問題作成者がいないことが、コンセンサスを図りにくくしていると指摘する。「情報総合」の受験生を増やすには「『情報総合』の問題では、膨大な知識や公式を覚えるような特別な勉強は要らない。がむしゃらに覚えていくことは苦痛だけど、考えるのは楽しいという受験生に、実際の問題をいかに周知できるかが課題だ」と話した。

情報を各大学の個別入試で問うには、現在すでに入試科目に取り入れている大学でも多くの課題がある。特に情報による受験者と問題作成者の確保は大学側にとって「情報入試」の実施の足かせとなりかねない。この問題作成では、すでに文科省の委託事業として、大阪大学などを中心に研究が進んでいる。次回はCBTによる情報入試問題の、技術的な可能性を掘り下げる。 (藤井孝良)

【情報を入試科目にしている大学】
中野由章・神戸市立科学技術高校教諭の調査によれば、2019年度の一般入試科目として情報が出題される大学は、国立大学で1校、私立大学で11校の計12校ある(表参照)。いずれの大学も選択科目として「情報」を置いている。学部名に「情報」と付いた学部が多いが、医療や芸術、経済、法学部なども見られる。ただし、最も多かった08年と比べると、実施大学数は大きく減らしてしまっているのが現状だ。

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【情報を入試科目にしている大学】の文と表について、中野教諭のホームページで最新の状況が更新されたため、2018年度から19年度の内容に差し替えました。

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