「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(中)

教育新聞電子版2018年11月21日付に
「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(中)
が掲載されました。

「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(中)
教育新聞電子版2018年11月21日付
https://www.kyobun.co.jp/commentary/cu20181121/

政府は2024年度から、大学入学共通テストで新学習指導要領の「情報Ⅰ」に対応した入試をCBT方式で実施する方針を示した。文科省ではすでに「大学入学者選抜改革推進委託事業」として、情報の入試問題の研究を始めている。研究を主導する萩原兼一・大阪大学教授に、CBTによる情報の入試問題の可能性について聞いた。

■CBTで思考力を測る
情報を大学入試に入れる動きは、これまで全く議論されてこなかったわけではない。

現在の大学入試改革の基本的な方向性を示した、文科省の「高大接続システム改革会議」の最終報告では「次期学習指導要領における教科『情報』に関する中央教育審議会の検討と連動しながら、適切な出題科目を設定し、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用する諸能力を評価する」と明記。これを受けて同省は大学入学者選抜改革推進委託事業として、各大学で学力の3要素を多面的・総合的に評価し、受験生の思考力や主体性を測る入試の研究開発に着手した。

その一つである情報分野で萩原教授らは「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」というテーマで研究を手がけている。

同教授らが取り組んでいるCBTによる情報の入試問題とは、どのようなものなのか。

同教授は「従来の紙のテストと同じような問題はCBTでも簡単にできる。しかし、そういうCBTをやりたいわけではない。コンピューターを使うことでしかできない、思考力を評価する問題について、バリエーションを広げる可能性を考えている」と強調する。

例えばプログラミングの問題で、あるプログラムを作る問題が出されたとする。試行錯誤を伴うのが当たり前のプログラミングでは、最初に作ったプログラムは多くの場合、正しく動かない。目的通りに動かない原因であるバグを探し、デバッグを繰り返す作業こそ、プログラミングにおける思考力が発揮される。

そうしたコンピューターの操作過程を記録できれば、紙のテストでは分からなかった思考力を測ることができる。計算問題でも、手計算による紙のテストではデータ数が限られ、計算ミスも起こりやすい。単純な計算ミスで正誤を判定するのではなく、コンピューターで膨大なデータを処理し、その上でどのような判断や分析をしたのかを評価できるようになるという。

■問題の作り方を確立する
もう一つ、萩原教授らが狙いとしているのは、問題の作問方法を確立することだ。同教授はその理由を「情報学のDNA」と表現する。

情報学はさまざまな事象をまとめたり汎用(はんよう)化したりする。問題作りでも同じように、思考力、判断力、表現力、さらに、メタ認知などのマクロな思考力とはどのような力で、どのような問題によって測ることができるのか、厳密な定義をし、それに基づいた作題マニュアルを作ろうとしている。

例えば、思考力を▽reading:記述を読んで意味を理解する力▽connection:結び付きを見いだす力▽discovery:直接に示されていない事柄を発見する力▽interence:事項・事柄の集まりに対し推論を適用する力――と細かく定義。同様に判断力や表現力も分類し、それぞれの力を問う設問を定義している。この作題マニュアルに基づいて問題を作ると、図のような問題ができる。「このように作り方を示し、具体例を出したら、高校の教員や大学教員がこれを参考に独自の問題を作れるようになる」と同教授は期待する。

さらに、同教授らは新学習指導要領の「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」の指導項目を10の分野に整理し、それぞれの分野についてレベル別に問う内容を示すルーブリックの開発にも着手している。このようにすることで、問題の難易度や受験生に問いたい力のバランスなどを、出題者の狙いに応じて調整することができる。

同教授は「情報は数学や理科と比べて歴史が浅く、問題が少ないので、作問する側は戸惑う。作問マニュアルとルーブリックはそのヒントになるだろう」と話す。

同教授らの研究は現在、CBTの「V1問題」について、東京大学と大阪大学の学生や高校生に対して模擬試験を実施した。CBTならではの問題も含めた最終版の「V2問題」は、今年度中に妥当性の検証を終える予定だ。

同教授は「情報入試」の国の方針について「共通テストで情報が入ることと、各大学で情報を入試科目に入れることは別問題だ。文系や理系にかかわらず、大学での学びや研究に情報的な考え方が重要であるということを大学側に認識してもらう必要がある」と指摘した。

CBTによる情報入試の技術的な研究は進んでいるが、実際に50万人以上が受験する大学入学共通テストを想定すると、さまざまな課題が浮かび上がってくる。実施主体である大学入試センターは、この情報入試に対してどのような準備を始めているのか。次回はセンターの担当者に、共通テストでの情報入試に向けた最新の動向を聞く。 (藤井孝良)

お問合せは
http://jnsg.jp/?page_id=93 からお願いします。