「平成21年告示高等学校学習指導要領に対応した平成28年度大学入試センター試験からの出題教科・科目等について(中間まとめ)」に対する情報処理学会と私立大学情報教育協会からの意見書

平成28年度(2016年度)の大学入試センター試験の出題教科・科目等の検討に際して、いくつかの科目の廃止が議論され、「情報関係基礎」もその議論の対象とされました。

発端となったのは、大学入試センター2011年12月19日付の「平成21年告示高等学校学習指導要領に対応した平成28年度大学入試センター試験からの出題教科・科目等について(中間まとめ)」でした。

大学入試センターの「中間まとめ」に対して、情報処理学会と私立大学情報教育協会(私情協)が意見書を出しています。

大学入試センター2012年5月17日付の「最終まとめ」では、2016年度での「情報関係基礎」の出題は継続されました(その後、2025年度に「情報Ⅰ」が出題されるまで、「情報関係基礎」は出題されました)。

大学入試センターの「中間まとめ」の内容、情報処理学会と私情協の意見書の内容、そして、大学入試センターの「最終まとめ」の内容を、まとめておきます。

(なお、2025年4月20日の記事のとおり、私情協は2025年3月28日に解散しました。2012年に私情協が迅速に意見書を出してくださったことに、深く感謝しています。)


  1. 大学入試センター 2011年12月19日付
    平成21年告示高等学校学習指導要領に対応した平成28年度大学入試センター試験からの出題教科・科目等について(中間まとめ)
    http://www.dnc.ac.jp/modules/news/content0470.html (国立国会図書館アーカイブ)
専門学科に関する科目
専門学科に関する科目の出題については,これまで「工業数理基礎」,「簿記・会計」及び「情報関係基礎」の3科目を出題してきたが,これらの科目の出題について,さらに検討する。

(説明)
検討に当たっては,これらの科目のうち受験者数が他の教科・科目と比較して極めて少ないものについては,平成28年度大学入試センター試験からの出題について慎重に検討する。

  1. 情報処理学会 2012年1月27日付
    大学入試センター試験における「情報」出題の提言
    https://www.ipsj.or.jp/release/kyoiku20120127.html
私ども情報処理学会は、情報処理分野における日本最大の学会として、わが国の将来にわたる持続的な発展のため、すべての国民を対象とした情報教育の拡充が必要であることを、継続して訴えてきています。その柱の一つが、高等学校における教科「情報」の学習の充実です。「情報」は新しい教科として2003年に開始され、必履修としてすべての高校生が学んでいます。
 
さて、高校で開講されている教科の学習を充実させるには、その教科の内容の充実は勿論ですが、個々の生徒の学習達成の適切な評価も欠かすことはできません。その際、大学入試センター試験(以下、センター試験)は、数学、英語をはじめとする多くの教科・科目において、学習達成の標準的な基準を考える上で指針というべき役割を果たしています。

しかし現時点において、教科「情報」はセンター試験の出題教科となっていません。このことは、わが国の将来のためには情報教育が重要であるとの認識に立ち、すべての高校生が学ぶ教科として導入された「情報」の充実にとって適切な状況とはいえません。すなわち、現在教科「情報」は、多くの高校において、学習指導要領では必ずしも主たる内容ではない、特定ソフトウェアの操作方法ばかりを教える授業が行われたり、場合によっては「情報」の時間に他の教科の内容を教える(いわゆる未履修)など、適切でない扱いがなされているのが現状です。これには複数の原因がありますが、学習達成度の適正な評価が行われていないこと、とくにセンター試験において「情報」が出題されていないことも大きな原因となっているものと思われます。

このため私共は、これまでにも「情報」をセンター試験の出題教科とすることを大学入試センターに要望して来ましたが、このことはまだ実現されていません。

それどころか、現在、大学入試センターが、2016年からのセンター試験における「情報関係基礎」の出題について、廃止を含めて検討されているとの報道がなされている状況です。

「情報関係基礎」はこれまで、工業、商業などの専門学科の生徒に配慮するという位置づけで数学の中に置かれてきたものであり、各専門教科の「情報技術基礎」や「情報処理」などに相当するものでした。このため、「情報関係基礎」の出題を単に廃止することについては、専門学科で学習する生徒の大学への進路を狭めることになるため、私共としては容認できないと考えています。

2003年に普通教科において「情報」が新設され必履修となったことに伴い、専門学科のこれらの科目は「情報」の代替として実施されるようになり、「情報関係基礎」の出題内容もそれを意識した形となってきていたものと、私共は受け止めています。今回、「情報関係基礎」の出題について見直される理由が、受験人数が少ないためということですが、広く高校生の科目選択の自由度を保障するという観点からも「情報」の試験を実施し、それをもって「情報関係基礎」を代替することで、専門学科で学ぶ高校生に関するこの問題を解消することが最善であると考え、教科「情報」をセンター試験の出題科目に加えることを提言致します。

  1. 私立大学情報教育協会 2012年3月23日付
    平成28年度大学入試センター試験の出題教科・科目等(中間まとめ)に関する意見
    http://www.juce.jp/LINK/syutudai.pdf

  1. 大学入試センター 2012年5月17日付
    平成21年告示高等学校学習指導要領に対応した平成28年度大学入試センター試験からの出題教科・科目等について(最終まとめ)
    http:www.dnc.ac.jp/modules/news/content0491.html (国立国会図書館アーカイブ)
専門学科に関する科目
出題科目は「簿記・会計」及び「情報関係基礎」の2科目とする。

「簿記・会計」については,「簿記」及び「財務会計Ⅰ」を総合した出題範囲とし,「財務会計Ⅰ」については,株式会社の会計の基礎的事項を含め,「財務会計の基礎」を出題範囲とする。

また,「情報関係基礎」は,農業,工業,商業,水産,家庭,看護,情報及び福祉の8教科に設定されている情報に関する基礎的科目を出題範囲とする。

(参考)情報に関する基礎的科目
農業科:「農業情報処理」,工業科:「情報技術基礎」,商業科:「情報処理」,水産科:「海洋情報技術」,家庭科:「生活産業情報」,看護科:「看護情報活用」,情報科:「情報産業と社会」,福祉科:「福祉情報活用」

(説明)
専門学科に関する科目は,「中間まとめ」において「これらの科目のうち受験者数が他の教科・科目と比較して極めて少ないものについては,平成28年度大学入試センター試験からの出題について慎重に検討する。」としていた。「工業数理基礎」,「簿記・会計」及び「情報関係基礎」のここ数年の受験状況を見ると,「簿記・会計」は1,300人程度,「情報関係基礎」は600人余りの受験者がいる。しかしながら「工業数理基礎」の受験者数は,近年減少傾向が継続し,過去5年間では70人以下となっており,平成24年度大学入試センター試験では,42人であった。
また,工業系学科出身者の受験状況を見ると,「情報関係基礎」の受験者数が,「工業数理基礎」の受験者数を常に相当数上回っており,「情報関係基礎」が工業系学科出身者の代替になっている。このような状況から専門学科に関する科目は,「工業数理基礎」を除いた「簿記・会計」及び「情報関係基礎」の2科目を継続して出題することとする。