「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(下)

教育新聞電子版2018年11月26日付に
「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(下)
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「情報」が大学入試に 実現に向けた課題(下)
教育新聞電子版2018年11月26日付
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高校新学習指導要領の「情報Ⅰ」を、大学入学共通テストで出題する方針が示された。大学入試センターにおいてもすでに、調査研究が重ねられている。同センターは今年7月、CBTを活用した情報科の試験問題開発に向け、情報関連学会や大学、高校教員から具体的な問題素案を募集すると発表した。問題素案を基に、今年中にモデル問題を作成。来年2月に数校で検証を行い、問題作成方針案を策定していく方針だ。50万人以上の受験が想定される共通テストでの情報の出題には、どのような検討課題があるのか。大学入試センターの大久保智哉准教授、大杉住子審議役に今後の動きを聞いた。

■「情報」出題までの経緯
――大学入試センターが問題を外部に求める取り組みは、これまでもあったのか。「情報」の出題についての、これまでの具体的な検討は。
大久保 センター試験については、科目ごとに委嘱された委員が非公開の場で問題作成に当たっている。調査研究段階とはいえ、公開の場で幅広く問題を募集し、検討や修正を加えて試験問題として利用していこうとする試みは初めてだ。

大杉 教科「情報」の出題に関する議論は、2014年の中教審の高大接続答申において、「情報活用能力」の評価が想定されたことに端を発している。それを受けた高大接続システム改革会議の最終報告では、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用する力を評価するため、次期学習指導要領における教科「情報」の検討と連動しながら、適切な出題科目を設定することと結論付けていた。また、Computer Based Testing(CBT)の導入も課題として挙げられてきた。

共通テストは20年度にスタートするが、22年度からは新しい科目構成の新学習指導要領に基づく教育課程となる。共通テストもそれに対応し、24年度からの出題科目において「歴史総合」や「公共」など、新しい科目の扱いをどうしていくのか、共通テストの方向性を議論する委員会で検討を始めたところであり、「情報」の扱いも併せて検討している。

センターでは今年度に入り、CBTを活用した出題の在り方を専門的に議論するべく、大学教員や高校教員らによる有識者会議を立ち上げた。具体的には、まずはコンピューターと親和性の高い「情報」について取り組むこととしている。24年度からの共通テストの実施枠組みについては、22年度ごろには明らかにされることになるので、それに向けて実施方法や方針案を徐々に形作っていくことになるだろう。

■CBTによる出題の可能性
――(大久保准教授は)CBTに関する調査研究を手がけているが、その研究と「情報」の出題はどのように関連するのか。

大久保 センターで取り組んでいる「統計理論と情報技術を用いた先端的試験技術の実証的研究」は、IRT(項目反応理論)や自然言語処理技術による採点の支援などを、中長期的な視野で行っている。IRTは事前に問題の難易度を測っておき、それらの問題の正解・不正解の状況によって、その人の能力を確率的に表現する仕組みだ。

諸外国でも一部でIRTとCBTを組み合わせた試験が始まっている。今まで紙でやっていた試験が、統計理論や自然言語処理技術、情報処理技術によって、新しくできることがある。研究では、高校生や大学生を対象に実証試験もやっている。例えば、コンピューター上では動画による試験問題を出題できる。紙でやる場合と動画でやる場合の測れる能力の違いや、受検生の疲労感、コンピューターのトラブルなどを検証している。

ただ、共通テストでのCBTによる「情報」の出題が、これらの研究を基にしたCBTによるものになるかどうかは、現段階で決まっていない。

大杉 「大学入学共通テスト企画委員会」における大きな方向性に関する議論と、具体的な実証研究を両輪でやっていくことになる。作問面、システム面など、さまざまな課題をクリアしていくための制度設計を、実証研究を通じて明らかにしながら、入学者選抜のスケジュールや、多様な大学での活用の在り方も見据えた適切な実施形態を検討していかなければならない。

コンピューターを使うとなっても、出題の方法はさまざま考えられる。CBTのメリットを生かすとなると、ランダムに問題を出題したり、受験生の能力に応じてアダプティブに出題していくものを目指したりということもあるかもしれない。一方で、全く同じ問題を一斉にやった方がいいという判断もあるかもしれない。実施の時期や規模を含めた選択肢について、それぞれのメリット・デメリットを検証している段階だ。

■共通テスト出題への課題
――今回、多岐選択式やキーボードでプログラムを入力させる形式の問題を公募しているが、24年に間に合わせる第一歩としての位置付けなのか。

大杉 プログラムをキーボードで入力させるというのは、共通テストで言えば記述式問題に対応するようなイメージかもしれない。一方、マーク式問題についてもコンピューターの特性を生かした工夫ができ、出題の幅が広がる可能性があると考えている。

共通テストの試行調査(プレテスト)では、数学の問題でコンピューターのグラフ表示ソフトを使うことを想定した問題を出題したが、ペーパーベースなので問題冊子の紙の上にコンピューターの画面が描かれている。CBTであれば、直接グラフ表示ソフトを動かしてみることもできるかもしれない。

まだまだ検討中の段階であるので、公募中の問題案では、たくさんのアイデアが欲しいと思っている。プログラムを書かせる問題についても、出題や解答形式で、これまでの作問とは違う工夫が必要になるだろう。

当面は、本番を見据えたモデル問題を作成しながら、必要なシステムと併せて実証実験を行っていくことになる。本格的な実施の直前になれば、共通テストの試行調査のような大規模な調査を実施する段階が来るだろう。大きな課題はシステムの設計にある。50万人以上が一斉に受ける大規模試験をCBTで実施するのは前例がない。

センター試験を実施している全ての会場にCBTのシステムが導入されるためには、かなりの条件整備と時間が必要だろう。例えば全国の地区ごとに、いくつかの大学を拠点にするなど、さまざまなやり方があると思われる。今後、こうした実施方法や規模感も見極めていかなければならない。

■情報の授業の工夫・改善
――他に「情報」を共通テストの科目に加える際の課題は。
大杉 どうしても入試の在り方だけが注目されてしまうが、高大接続改革は高校の学びの成果をどうつないでいくのか、接続段階でどういう力を問うのかという点が一番重要だ。そのためには、高校の情報科の授業の在り方が大きな影響を与える。「情報」の免許を持っている専門の教員が少ない現状も含めて、高校の情報の授業の工夫・改善がどう測られていくかと入試の在り方はセットで考えなければならない。

大学側も共通的な素養として問う力と、情報の専門家となるために求める力は異なるだろう。各大学の個別入試で問う力と共通テストで問う力をどのように役割分担していくのか、まずはその議論のきっかけとなるようなモデル問題を提示できるようにしたいと思っている。

大久保 CBTを分割や複数回で実施するとなると、試験問題がそれぞれの回で変わることになる。その試験問題の公平性をどうするかという議論がある。その理論としてIRTがあるが「試験問題が違うのに点数を比較していいのか。それでは不公平ではないか」という疑問が起こることが想定される。受験生の納得感を得ていくことを同時並行で進めていかないと、IRTが技術的・理論的に優れているものであったとしても、実施が非常に難しくなってしまう。

また、IRTでやるとなれば、難易度別に膨大な問題を管理する「アイテムバンク」が必要になる。アイテムバンクを運用するのに十分なコスト、人員、時間をスケジュールを組んでやっていく必要があるだろう。 (藤井孝良)

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